2017.6.15

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,18

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 講師

太陽の塔は、1970年の大阪万国博覧会を象徴するモニュメントである。テーマ館プロデューサーを受諾した岡本太郎がつくった「ベラボーなもの」。その人気の秘密は、大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」をめぐって、太郎自身が「正直に云って、いささかこの表現に抵抗を感じた」と述べているところに隠されているような気がする。「1970年を境に、新しい日本人像が出現したら。どんなに経済成長をしても、うまく立ちまわっても、それだけではつまらないではないか。ふくよかな、幅のひろい人間的魅力がほしい」(岡本太郎「万国博に賭けたもの」岡本太郎・丹下健三監修 黒川紀章構成『日本万国博―建築・造形』恒文社、1971年)と。そこには、パリ大学哲学科で民族学を学んだ太郎の思惟があったに違いない。実際、テーマ館の地下には世界から蒐集した民族資料が展示されたのだった。
 
2025年の国際博覧会の大阪誘致が話題になっている今、かつての万博(EXPO’70)の時代に知識人は未来をどう考えていたのか少しふりかえってみよう。いまひとつの手がかりは、梅棹忠夫の幻の著作『人類の未来』である。完成した一書としては出版されなかったが、梅棹忠夫著・小長谷有紀編『梅棹忠夫の「人類の未来」―暗黒のかなたの光明』(勉誠出版、2012年)にその構想が披瀝されていて興味深い。“こざね”という執筆メモを書いたカードの中に、「副題“プレイボーイのすすめ”」がある。
 
小長谷有紀によると、「有用性をもとめることなく、知的好奇心のおもむくままに生きることを理想とした。それが梅棹のいうところのプレイボーイである。そして、それを自分の理想とするだけではなく、人類が破滅をさけるためには必要なことだ、とまで言おうとしていた」(梅棹・小長谷2012)ことが見てとれるという。万博にかかわり、その跡地に建設された国立民族学博物館の初代館長を務めた梅棹は、文化行政の理論と実践に大きな功績を残した人でもあった。また情報産業論にも先鞭をつけた文明学者としても名高い。確かに、プレイボーイとは、当時も現在も誤解を招きかねない表現かもしれないが、知的遊びというべき文化の創造が脱成長社会の要諦である、ということを見抜いていたのだろう。
 

岡本太郎などまさにプレイボーイといえそうだが、遊びの精神が一部の芸術家のみならず、広く普通の人々に浸透することを太郎も梅棹も望んでいたはずである。鬼ごっこが大好きで世界に広めていく担い手である“鬼ゴッター”も、さしずめプレイボーイといえようか。鬼ごっこのある町づくりは、ライフスタイルのイノベーションを体現する活動でもある。その背後には「ふくよかな、幅のひろい人間的魅力」を充実させようとする人々の欲求があり、そこに脱成長社会におけるスポーツの光明が見えてくるのではないだろうか。

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事