2015.9.24

『オニ文化コラム』Vol,6

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

まず、このたびの茨城県での大規模水害に際し、心よりお見舞いを申し上げます。

 先日茨城に伺って知人の皆様などとお話をし、改めて災害の恐ろしさを知り、自分にできることは行おう…という気持ちを強めました。

 今回の水害は「鬼怒川」で起こりました。地名には意味があります。

 鬼怒川は栃木県日光市の鬼怒沼を源とし、茨城県に入り利根川と合流する川で、上流部の火山地帯をもととした鬼怒川温泉は全国的に有名です。古くは『常陸国風土記』に「毛野河」、『続日本起』には「毛野川」などと書かれ、下総国と常陸国の境界として登場しております。時代が変わり江戸時代や明治時代に入っても、「衣川」「絹川」などと表現され、現在のように「鬼」とは書かれておりません。

 現在のように「鬼怒川」と明記されるようになったのは『古事類苑』が初出と言われます。『古事類苑』とは明治政府が編纂を決め、1896年に刊行を開始,1913年に完結した一種の百科事典です。国文学研究資料館古事類苑データベースを調べると、確かに「鬼怒川」という記述は7か所ほど見受けられました。

 なぜ、「鬼」を使ったのか…一説に、その暴れ具合から「鬼が怒る」という表現に繋がったとも言われております。鬼という単語の起源や使われ方は多岐にわたりますが、ここで言いたいのは「力強い」「荒々しい」という意味を込めて「鬼」という単語を用いることがある、ということです。

 鬼怒川は氾濫をおこす暴れ川でした。ネットで調べると、昭和に入ってから現在に至るまででも7回ほど洪水をおこしているそうです。川を「暴れる」と表現するのは、東海の天竜川も同様で、こちらは「暴れ天竜」とも言われます。暴れる川に付けられた地名には先人からの「気を付けてね」というメッセージが込められているのでしょう。

 だからこそ、「鬼」繋がりで、先人に鬼ごっこ協会の鬼ごっこの可能性を伝えたいのです。災害の時こそ、だれでも参加できる鬼ごっこでみんなが力強く元気になれると、私は知っています。災害に役立つ鬼ごっこの可能性を改めて強く言わせていただき、今月のコラムの締めとさせていただきます。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長


民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか