『オニ文化コラム』Vol,51
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
梅雨でうっすら肌寒さを感じる日もある6月。肌寒さ繋がりで「魂」について。人の霊魂に「鬼」がいますので。
平安時代中期に成立した日本初の辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』。ここに「鬼」について「鬼居偉反(和名、於爾)。或設云、隠字(音、於爾訛也)。鬼者隠而不欲顯形。故俗呼曰隠也。人死魂藭也。」とあります。現代語訳しますと「鬼の音は「居偉」の反切(和名は於爾(オニ))とのことである。ある説では隠という字も使うという(この音が訛って於爾(オニ)となったのである)。鬼とは隠れ、そして姿を現したがらないものである。だから俗に隠と呼ぶのである。死んだ人の魂神である。」という意味です。日本的な「オニ」の語源を解説したものとして知られておりますが、文章最後のほうにある「死んだ人の魂」を鬼というというのは中国の鬼。
世界大百科事典(平凡社)には「中国において,死者の霊魂を意味する。人間は陽気の霊で精神をつかさどる魂と、陰気の霊で肉体をつかさどる魄(はく)との二つの神霊をもつが、死後、魂は天上に昇って神となり、魄は地上にとどまって鬼となると考えられた。鬼は神とともに超自然的な力を有し、生者に禍福をもたらす霊的な存在であるが、特に天寿を全うすることができずに横死した人間の鬼は、強い霊力を有し、生者に憑依(ひようい)し祟(たたり)をなす悪鬼となるとして恐れられた。」と解説されております。つまり、「魂」は大陸由来の意味を持った文字なのです。
現在においても中国や台湾などで使われる「鬼」。台湾をはじめとする中華圏では、旧暦7月は「鬼月(クィユェ)」と呼ばれまして、これは「死者の霊(鬼)が霊界から人間界に戻ってくる1カ月間」の事を意味します。旧暦7月1日に「鬼門」(あの世の扉)が開き、それから1カ月間、先祖や無縁仏の霊(鬼)がこの世に戻ってくるのです。人々は7月1日から30日までの1日を選び、「普渡(プードゥー)」と呼ばれる儀式を行い、多くの食べ物を用意し、盛大にもてなします。日本のお盆と似ているようで似ていない・・・そんな鬼月の行事です。
日本ではお盆に鬼が帰ってくるとは言いませんものね(汗)
山崎 敬子 / Yamazaki keiko
玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長
民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか