『オニ文化コラム』Vol,28
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
酷暑ですが冷静にオニ文化。
日本には恋人欲しさに頑張ってあと一歩で挫折する鬼の話があります。
例えば青森県弘前市十腰内の巖鬼山神社の鬼神太夫伝説。
その昔、怪力の刀鍛冶・鬼神太夫がいた。彼は刀鍛冶長者の娘を嫁に欲しくて長者に申し込むも長者は「一晩で十腰(本)の刀を作ったらね!」と返事。太夫が本当に一晩で十腰の刀を作ったので焦った長者は一腰盗んで川に捨てた。それを知らない太夫、何回数えても九腰なので「十腰ない…」と呟きながら立ち去った。この呟きが「十腰内(とこしない)」の由来になりました…という話。
そして秋田県男鹿市の赤神神社五社堂の石段伝説。
その昔、漢の武帝が5匹のコウモリを連れて男鹿に来た。コウモリは5匹の鬼に変わり家来に。鬼たちは正月休みになると里に来て村娘に手を出すなど暴れたので、困った村人は「一晩で1000段の石段を作れたら、1年に1人娘を差し出すよ。作れなかったらもう里には来ないで!」と提案。鬼がコツコツ作り出し1000段作れそうなので、慌てた村ではモノマネ上手な村人がと鶏の鳴き声の真似をした。あと1段!というところで夜が明けたと勘違いした鬼たちは山に帰ったよ…という話。
埼玉県嵐山町の鬼鎮神社にも。刀鍛冶親方の娘を嫁にしたい弟子に対し、親方が「1日に100本の刀を作れたらね!」と無茶ぶり。弟子は凄まじい勢いで刀を打ち始め、その凄まじさから弟子はいつしか鬼に!慌てた親方は鶏を無理やり鳴かせて弟子に夜が明けたと誤解させた。最後の1つを作るところで鳴き声を聞いた弟子はショックで死亡。哀れんだ親方は弟子を「鬼鎮様」として祀ったヨ…という話。
宮崎県都城市の東霧島神社の鬼岩階段伝説も。霧島山の麓の村に住んでいた悪鬼が娘を嫁に欲しいと親に頼むも断られ、怒って暴れて村の田畑を荒らした。困った村人は神様に相談。神様は鬼に「願いを叶えたいなら一晩で鶏が鳴くまでに1000個の石で石段を作って。出来なければ諦めて!」と提案。鬼は作り出し999個使った。焦った神様は東の空を少し明るくし、鶏を鳴かせた。あと1段ができず鬼は諦めて山奥に消えた…という話。
それぞれ微妙に違いますが、やや気の毒な気がしないでもない自分です。
山崎 敬子 / Yamazaki keiko
玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長
民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか